2020年に東京オリンピック開催を控え、日本文化を伝える組子にも光が当てられている。富山市に本社工場を置く株式会社タニハタは、国内外で年間600件以上の組子建具の納入実績を誇る。ザ・リッツ・カールトン東京、ザ・リッツ・カールトン京都、ホテル雅叙園東京などのホテルから、駅、空港、レストラン、スターバックスのほか、アップル、ツイッターなどのIT企業にもオリジナルデザインの組子を納入。大判組子の製作やインターネット販売、自社開発ソフトによるCGでのデザイン提案など、アナログ・デジタル両面での革新で注目を集める。
今年、タニハタは世界的に権威のあるデザイン賞の一つ、ドイツのiFデザインアワードで最高賞の金賞を受賞。受賞作は18種類の組子文様をまとめたものだ。文様に込められた願い、ストーリーも重要視されるが、それらをネットやカタログでも丁寧に紹介している。組子の伝統の技を守りつつ、建築デザイナーが発注しやすいよう、IT技術の導入に早くから積極的に取り組むタニハタ。世界で高く評価される組子デザインなどについて伺った。
1990年代に、タニハタは苦境に立たされていた。和室離れやバブル崩壊など、住宅業界を取り巻く環境が激変し、高価な組子は売れなくなった。洋風の建具に取り組んだが、熟練の職人が辞めたり、中国製の安い商品が出回る事態に。2000年に生き残りをかけ出店したのが、インターネットショッピングモールだ。ラティスや組子スライドスクリーンで売り上げを伸ばし、2007年には「経済産業省 IT経営100選 最優秀企業賞」を受賞。「インターネット販売は、小売のノウハウを構築するのにとても役立ちました。その都度、最善だと思うことに取り組むなかで、いま再び、和のものづくりに戻ってきました。これは一つのきっかけでそうなったのではなく、社員一同が、螺旋階段のように、一つひとつのステップを積み重ねてきたおかげです。」と語る、代表取締役社長の谷端信夫さん。2005年頃に和室向けの組子欄間の製作依頼があり、それ以降、伝統の技を駆使した組子製作に再び力を注ぐ。いまでは、ほぼ100%がネットでの販売となり、海外への販売は2割を超えた。ニューヨーク、ロンドン、オーストラリアにも代理店を置き、世界各地から注文が入る。
商業施設の組子の発注は、工期の終盤近くになることが多いため、スピード感のある対応が必須だ。タニハタでは注文が入るとすぐに納期を決定し、スケジュール管理を徹底。ホテルの案件では、組子の建具400枚という大口注文もある。大判・多枚数の注文に対応するために、7台のNCラジアルソーなどの機械の導入と工場設備の充実もはかった。また、CGソフトを開発し、組子をパターン化することで、デザイン提案もスピーディーになった。社内デザイナーのほか、外部のデザイナーと連携して、施主ごとにストーリーのある組子デザインを迅速に提案できるのも大きな強みだ。ほかにも、建築デザイナーが組子の特性を理解して発注しやすくするため組子を分類し、名称を明記。文様の由来もネットやカタログに掲載している。顧客の立場に立ったネット運営や小売りのノウハウは、ネット販売から学んだことも多いという。
日本橋とやま館の和食レストラン「富山 はま作」の大判の組子は、19歳、45歳、73歳の職人が協力し、高い技術で組み上げたもの。社員は20名。ベテラン職人から若手に、技術、知識、そして常に高みを目指す職人としての心構えも継承されている。2年前に入社した冨田真央さんは短大でデザインを学び、ものづくりに魅力を感じて入社。ベテラン職人の指導を受け、五つ星ホテルや海外の施設、日本最古の神社に納める組子のデザインを手がけるなど、成長も著しい。組子の奥深さに面白さを感じながら、より良いデザイン提案に挑む。
近年使用する木材は、木曽ひのきなど、産地で手厚く管理された国産のブランド木材へとシフトしてきている。0.1ミリの精度で組み上げていく組子の世界。材料の見極めが最も肝心で難しい作業となる。ベテランの職人が材料の見極めや加工を中心的に担い、若手職人とともに「納まり」のいい精緻な組子を仕上げていく。
また、2012年にはニューヨークの国際家具見本市ICFFに出展して大きな反響があった。タニハタ本社には海外から訪れるデザイナーも多く、今後は海外との取り引きが、さらに増えていく見込みだ。そして、組子の技をさらに進化させるため、今後も、立体的な組子や色への挑戦など、組子の新たな可能性を探る努力は惜しまないと語る。