400年の歴史がある鋳物の町、富山県高岡市に本社を置く株式会社タカタレムノスは、早くからデザイナーと共にデザイン性の高い掛け時計、置き時計、プロダクトなどを自社開発してきた。また、高岡の鋳物技術を活かした商品でも高い評価を得てきた。本社工場では、時計の組立が行われている。代表作の「RIKI CLOCK」は、文字盤を眺めているだけでも美しい。同社の歴史は、1947年に個人創業で鋳物の仏具の製造を始めたことに遡る。そのなかで、株式会社精工舎(現、セイコークロック株式会社)から依頼を受け、鋳物の時計枠や部品の製造を開始。1977年に株式会社高田製作所に組織変更。その後、時計事業部を立ち上げ、株式会社精工舎の協力工場に。1984年に時計事業部を分離独立し、有限会社タカタ(現株式会社タカタレムノス)を設立した。「故高田博社長が、自分たちのものづくりの信念がお客さまに伝わっているかどうか、直接評価を受けたいという思いからの独立でした。」と語る同社、取締役、営業企画部長の菊地圭輔さん。他社との差別化をはかるため、本格的に自社製品開発に着手していった。
1988年に自社製品第1号として、川崎和男さんデザインによるGANBARA(ガンバラ)ブランドの発売を開始。1989年にGANBARAの「HOLA(ホーラ)」など、同シリーズの商品がグッドデザイン賞を受賞した。HOLAはニューヨークのクーパー・ヒューイット・ナショナルデザインミュージアムの永久展示品に選定されるなど高い評価を受け、同社が広く知られるきっかけとなった。その後、株式会社タカタへの組織変更を経て、1992年には社名を現在のタカタレムノスに。以来、日本の優れたデザイナーとともに新商品を開発し、海外の展示会にも積極的に参加している。レムノスとはエーゲ海の島の名前。この島にまつわるギリシャ神話に因み、タカタレムノスは「より美しく、より感性を刺激する創造の場として、革新的で永続的な美しさを提案し続ける」という、企業原理を掲げる。高みを目指すものづくりへの情熱と美意識が、そこに込められている。
当初は順調だった自社製品開発だったが、樹脂成型による時計は、1997年頃からアジアの展示会などで大量のコピー商品が出回り、同社は大きな転換を迫られた。そこで、天然木の木枠やプライウッド枠などの加工・開発に着手。他社が真似できない、独自の技術や素材の開発にこだわっていくことになる。
そして、2000年に開催された富山県総合デザインセンターのデザインコンペティションで出会った山本章さんとのつながりから、プロダクトデザイナー・渡辺力さんとの交流が始まった。そのなかで誕生したのが、名作「RIKI CLOCK」だ。楽器のタンバリンの木枠を時計の木枠へと独自に進化させた「RIKI CLOCK」は、2004年のグッドデザイン賞を受賞。そのほか、塚本カナエさん、寺田尚樹さん、安積伸さん、nendoなど、日本を代表するデザイナーらと共同開発に挑み新商品を発表する。「タカタレムノスの一番の強みは、デザイナーとのコミュニケーションが密なこと。時間をかけてお互いの思いや価値観を共有しながら信頼関係を結び、永く愛されるものづくりを目指しているのです」。
デザイナーとの密な対話や協力工場とのコラボが、新素材への挑戦や革新的なものづくりにつながる。コンセプトと製造方法やコストとのせめぎ合いもあるが、タカタレムノスの美意識、細部まで徹底してこだわる姿勢には、一流デザイナーからの信頼も厚い。その成功例の一つが、寺田尚樹さんデザインの「15.0%アイスクリームスプーン」だ。グループ企業である高田製作所の、精度の高い鋳物や研磨の技術を活かして開発された無垢のアルミのスプーン。熱伝導率の高さから、固いアイスも溶け易く簡単に食べられる。デザイン性、機能性が評価され、2011年にグッドデザイン賞を受賞。「20万本以上のヒットとなりましたが、偶然生まれた商品ではなく、寺田さんとの長いお付き合い、普段からの取り組みのなかで、ある意味、必然的に生まれた商品だと考えています」。
最近では複数のデザイナーによるカッコー時計の新シリーズも発表。シンプルな形状と愛らしさで、上質な安らぎを与えてくれる。現在、世界約30カ国で販売されるタカタレムノスの商品。「今後も永続的な美しさがあり、価値を提案し続けられるものづくりを大切にしたい。創造性豊かな商品によって、世界的に注目されるブランドとして認知されるよう、努力を惜しまないでいたい。」と語る。