富山プロダクツ

株式会社 山口久乗

PROFILE
1907年に高岡市で神仏具の企画制作と卸売り会社として創業。現代仏具や、特におりんの企画制作を得意とし、インテリアに合わせたプロダクト、おりんの楽器など、多彩な商品を毎年発表。2019年発表の「アストロリン」はインターナショナル・ギフト・ショーでLIFE×DESIGNアワード「ベスト匠の技賞」を受賞。さらに、全国伝統的工芸品公募展「日本伝統工芸士会会長賞」も受賞した。本社ショールームは、平日は予約なしで訪れることが可能で、実際に手にとって心地いい音色を体感できる。県内外から自分らしい音を求めて、多くの人が訪れる。

おりんの癒しを、もっと、そばに。

現代仏具誕生は、大震災がきっかけ

富山県高岡市は400年の歴史を誇る鋳物のまち。国の伝統的工芸品「高岡銅器」で知られ、全国で販売される仏具金物のうち約9割は高岡で作られている。株式会社山口久乗は1907年の創業以来、おりんや花立てなどの仏具の企画制作と卸売を手がける。代表取締役会長の山口敏雄さんは、生活様式の変化と1995年の阪神・淡路大震災を機に、暮らしに合った現代仏具を作り始めた。「被災した神戸のお得意様のお手伝いに出かけたときに、伝統的な背の高いろうそく立てが、千枚通しのように仏壇をブスブスと刺している姿を見ました。仏具を凶器にしてはいけないと背の低いろうそく立て、姿のシンプルな花立てや香炉を作りました。いまでこそ現代仏具は広く認められていますが、当時は宗派ごとに形が割合とうるさい時代。銅器も仏具も全く素人で婿養子に入った私はいろいろ非難も受けました。でも、形式に関係なく手を合わせ、心の癒しを得られる仏具が必要だと考えたのです」

大好きなおりんの音を、身近に楽しんで欲しい

山口さんは、それまでになかった明るい着色を施したり、おりんに高台をつけたりと新しい仏具を自らデザイン。すると現代仏具への動きは、業界全体へ広がっていった。「高岡は世界屈指の金属工芸品の名産地。デザイン、鋳込み、研磨、着色、彫金、象嵌などの加飾は分業制で、それぞれ一流の職人たちが生業としています。仏具の市場が縮小するなかでも、優れた技術と人を生かし、なんとか後世に伝えていきたいと試行錯誤してきたのです」
そこで、おりんの音色が大好きだった山口さんは、日常の中でその魅力をもっと引き出したいと考えた。デザイナーの磯野梨影さんとともに、「音をデザインする」という、新しい創造の世界へ。いまや山口久乗の代名詞となっている優凛(ゆうりん)シリーズを2010年に発表。これらは、澄んだ響きを、インテリアに合わせて楽しめるプロダクトだ。ドアにつける「どありん」や、「てのりん」、「りんごりん」、「ことりん」など、洗練されたデザインと優しい音は各方面から高い評価を受けた。

f分の1ゆらぎで、癒しを感じる音

2019年に発表された「アストロリン」は宇宙飛行士が小首を傾けたような可愛らしいおりん。誰もがいい音が鳴らせるよう、おりんの角度や撥(ばち)も工夫。山口さん自ら、検証を重ねて製品化したものだ。また、音階が調律されたおりんの楽器も数多く作られ、プロの演奏家に使われている。音の違いはどうやって作られているのだろうか。「同じものでも金属を削るたびに音は低くなります。また、形の大きいものは音が低く、小さいものは音が高い。それらを調整して周波数を測り、ドレミの音階を作りだすことができるのです」
なぜ、久乗おりんの音に人は魅了されるのか。おりんの音を検音しているうちに、その心地よさからこの音が大好きになり、のめり込んだという山口さん。優凛の開発以前から、日本音響研究所などで音を科学的にも検証。「調べてもらうと、自然界の音と同じく、心地よさを感じるf分の1ゆらぎがあり、癒しの効果も認められる特別な音だと分かりました。また、富山大学の心理学の先生にも実験していただくと、久乗おりんの音を聴くと『ミッドα波』という、心身ともにリラックスし、自己の能力をフルに発揮できる『弛緩集中』の状態になるという結果が出たのです」

心に届く、おりんの音の優しさ

 

山口さんのおりんへの熱意と努力が実り、北陸新幹線新高岡駅やJR高岡駅、万葉線など高岡のあちこちに、久乗おりんのメロディーが使われ、独自の音風景をつくりだす。富山湾越しに立山連峰を望む景勝地、道の駅「雨晴」にも「りん鐘」が設置され、山口さんは「海に山に宙(そら)に 想いを届ける音のかけはし」という銘板を記した。同じ鐘は山口久乗の社屋前にも設置され、誰もが自由に鳴らしていい。「何かにお祈りしたり、感謝したり、おりんの音を鳴らすと、気持ちをそこへ届けてくれます。また、向こうからも守ってくれる安心感をいただけるような、音の架け橋ですね。やはり、おりんは見た目だけでは勝負できないもの。これからも、正直に素直なもの、科学的にも検証できる本質的な価値のあるものを作り出していきたいですね」。1500年前の仏教の伝来以来、やがておりんは日本文化の一部になった。金属の音色には、場を清浄にしたり、魔除けの効果があるとも信じられてきた。おりんを通じて、亡くなった家族や先祖と想いを通じ合わせることはもちろん、普段の暮らしのなかで久乗おりんの音は、心地いい優しさを、人の心に届けている。

Yamaguchi Kyujo Co., Ltd. is a company located in Takaoka City, Toyama Prefecture, that was founded in 1907. It designs, manufactures, and sells Buddhist altar items. In recent years, it has specialized in designing and manufacturing contemporary styles of altar items, notably orin bell bowls. It develops a wide range of orin goods, including those designed to fit in the interiors of modern houses and musical instruments using orins. Toshio Yamaguchi, chairman of the company, inspired by his love of the sound of the orin, has embarked with designer Rie Isono to a new world of creativity, to “design sound.” The Yurin series, a signature product of the company, was released in 2010. In 2019 the company released Astrorin, a cute orin shaped like an astronaut quizzically turning its head to the side. It won a Best Design Award in the Life x Design category of the Tokyo International Gift Show. Japan Acoustic Lab. has verified the soothing effects of the sound of the orin, with its 1/f fluctuation. In addition, an experiment at the University of Toyama showed that listening to the company’s orins produces mid-level alpha waves in the brain, indicating the physical and mental state called “relaxed concentration” where people can use their abilities to the full. Chairman Yamaguchi says “Our goal is to create products for pure pleasure that have an essential value verifiable by science.”