株式会社光岡自動車は、富山日野自動車の営業マンをしていた光岡進さん(現光岡自動車会長)が富山市で1968年に創業。自動車鈑金業からスタートし、中古車販売業へ。業界に先駆けて、北海道から沖縄までの全国展開で成功を収めた。その後、1982年には50ccエンジン搭載の「ゼロハンカー・BUBUシャトル」を発表。原付免許で運転できる小型車は大人気となった。しかし、国の規制によって1985年に普通免許が必要になると、販売台数が減り工場は一時閉鎖へ。そんな苦境のなか、ロサンゼルスに旅に出た光岡さんは、フォルクスワーゲン・ビートルを改造したレプリカと出会う。ある車をベースに、ボディを変えることは海外では自動車文化の一部だった。光岡さんは自社での開発を進め、1987年にアニメのルパン三世の愛車であるメルセデス・ベンツSSKのレプリカ「BUBUクラシックSSK」を発表。これが同社のオリジナルカー作りの始まりとなった。
1996年、光岡自動車はスポーツカー「ゼロワン」を発表し、日本で10番目の乗用自動車メーカーとなる。そして、2001年の東京モーターショーに出展したスーパーカー「オロチ」が、業界の内外に大きな衝撃と影響を与えた。
「オロチ」をデザインした、ミツオカ事業部開発課長の青木孝憲さんは、光岡進さんについて次のように語る。「ピュアな少年がそのまま大人になったような、自動車を心から愛し、自動車に愛された男。惚れる生き方というか、すごい人だなと思いますね」。子どもの頃からの純真なものづくりへの思いや憧れが、光岡自動車の車には凝縮されている。それが乗る人にとっての夢の実現と重なり合っていくのだ。
青木さんと光岡さんとの出会いもドラマチック。青木さんはカーデザイナーを志し都内の専門学校で学んだが、氷河期で就職活動は難航。たまたま車雑誌の裏表紙の「ゼロワン」の広告を見て、「カーメーカーなんだと。何も知らずフリーダイヤルに電話して、プレゼンテーションを見てもらいたいと」
なんとか作品を見てもらえることになり青木さんが送ると、「すぐに富山に来て」と、光岡進さんが青木さんを面接。「会長は人を見るとき、成績表ではなく心を見る人。優等生が好きじゃない人です。僕は他社メーカーの採用試験に落ちたこと。でも、自動車が好きだという情熱がたくさんあることを正直に話すと、1~2分黙って、すぐ来いと」その場で採用が決定したと振り返る。しかし、青木さんもすぐに車のデザインができたわけではなく、入社して3年ほどは車の説明書を作ったり、東京のショールームで寝泊まりしながらマイクロカーの営業をしたり。そんな鬱屈した日々のなかで、2001年の東京モーターショー出展の話を知る。上司に頼まれたわけではなく、自らの情熱や力のすべてをぶつけたのが『オロチ』のデザインだった。富山にスケッチを送ると、即採用に。いま見ても、当時24歳の青木さんの情熱がそこかしこに、ほとばしっている。ヤマタノオロチにちなみ、蛇のような目を持ったオリジナリティに満ちたデザインは、瞬く間に業界内外の話題をさらった。「車のデザインではなく、蛇の彫刻を作ろうと思った」と語る独創的なフォルム。大手メーカーのデザイナーや技術者から密かに励ましを受けたほど、異彩を放つ存在となった。
ダークヒーローが好きと語る青木さん。「子どもの頃から人と同じもの、多数派が嫌いです。不良には不良のかっこよさがある。オロチも優等生には負けないぞという気持ちで何百枚も書きなぐって最後にでてきたデザインでした。オロチの販売が終わった2014年頃、何かのタイミングで会長に、お前はうちのカーデザイナーだと言ってもらい、初めて認められたようで、とてもうれしかったですね」
光岡自動車の創業50周年を記念して2018年に発表されたのが「ロックスター」だ。200台限定で3ヶ月で完売し、2021年まで注文分を生産中。マツダのロードスターをベースに、往年のクラシックアメリカンスポーツカーをオマージュしたデザインだ。青木さんが現社長がリーダーを務めるバンドのライブを見に行ったときに、楽しんでいる観客こそがロックスターだとヒントを得てネーミング。「目指したいのは、お客様と一番近いメーカー。マーケティングではなく、俺が欲しいんだという単純な思いですね。客観的に見て、光岡だったらもっと弾けて面白いことができるという視点。これからも、ものづくりを通して人を幸せに、楽しませることを大事にしていきたいのです」
Mitsuoka Motor Co., Ltd. was founded by Susumu Mitsuoka in Toyama City in 1968. Starting from car metalwork, the company branched out into selling new imports and used cars. In 1996, it became Japan’s tenth authorized automobile manufacturer. The many highly original cars it has produced have won it fans nationwide. The original cars are constructed individually by hand in the company’s own plant, with a limited production of around 450 per year. Customers implicitly rely on the company’s no-compromise attitude of not allowing even a single pinhole in hidden areas. The Orochi supercar shown at the Tokyo Motor Show in 2001 wowed people both inside and outside the industry. Mitsuoka’s Takanori Aoki, who designed the Orochi, said of the company’s founder Susumu Mitsuoka that he “is a man who retains a boy’s pure vision, a man who thoroughly loves and is loved by cars.” The Rock Star, released in 2018, is based on the Mazda Roadster, with a design influenced by classic US sports cars. Aoki says that he wants to “make people happy and give them joy in life through creating products.”