富山県西部の高岡市は400年以上の歴史を誇る鋳物のまち。高岡銅器発祥の地、金屋町は「さまのこ」と呼ばれる千本格子の家並みが連なり風情が漂う。1970年代初頭までは数多くの工場があり、職人たちが鋳込みや加工に汗を流した。その一角に、1946年創業の四津川製作所がある。創業時の屋号は「喜泉」。暮らしに喜びと潤いを添える品を届けたいとの思いが込められ、その思いはいまもすべての商品に注がれる。当初は鍋釡など生活用品の鋳物を、やがて真鍮の花器の製造へ。1950年代には鉄鋳物のギフト用品の製造にシフト。1982年からは企画制作に軸足を置いたファブレス企業となった。現在は香炉や花器など伝統的な高岡銅器の美を継承する「喜泉堂」、喜泉の思いを現代に届けるライフスタイルブランドとしてやわらかな発想で金属を生かす「KISEN」、癒しと祈り・心のインテリアブランド「空穏KUON」の3ブランドを展開して国内外に販路を広げている。
「喜泉堂」ブランドは兄で社長の四津川元将さんが、「KISEN」と「空穏 KUON」は弟で専務の晋さんが担当する。晋さんは高校を卒業後、アメリカの大学に留学。経営管理学を専攻し、卒業後は現地に就職。10年間アメリカで過ごし2003年に帰郷して経営に参画した。晋さんは次のように振り返る。「ライフスタイルが変化し、調度品や置き物の需要が減るなかで、私たち世代でやることがあるだろうと。それまで販売は流通問屋さん任せでしたが需要と乖離する部分がありました。実際に使ってもらえるきれいなものを自分たちでデザインする能力がないと会社の存在理由がないのではと」。そこで、晋さんは原型師のもとで8年ほど彫刻や塑造を学ぶことに。その中で、毎年製作する干支の置き物で、晋さん作の商品を販売し始めた。「いいねと言ってくれる人がいて自信がつき新ブランドのデザインへ。ダイニングシーンか癒しのブランドかで迷い、創業時の原点である暮らしに近いプロダクトを作ろうと。それが、2014年に発表した『KISEN』です」。
「KISEN」で最初に発表されたGuinomi Sake Cupシリーズは、金属と木という異素材の特性を、見た目だけでなく使い勝手に巧みに活かしたことが評価され、グッドデザイン賞を受賞。同シリーズは国内外で受賞を重ねている。「開発当初に兄と話し、複合素材で付加価値と競争力をつけていこうと。3DCADは富山県総合デザインセンターで教わりサポートを受けました。企画会議が飲み会になるうれしいところがあり、仲間を呼んでは試作品で飲んでもらい、重さや口当たりなど、様々な意見を聞いて納得のいくまで改良を重ねました。
高岡の良さは、職人さんがすぐ近くにいてとても協力的で、デザインセンターもあり開発のスピードが速いこと。発表した当初から完成度が高いものづくりができました」。その後も「KISEN」ブランドでは、ワイングラスの底に金属のピボットベースを置き、揺らしてアロマを楽しめるWine Glass AROWIRLやDecanter AROWIRL fortwo、Thermal Bottle Cooler HIMUROなど、美しさや品格、機能性、サプライズのある商品を次々と展開。使い心地や手入れなど、様々な場面を想定して細部まで計算されたデザインで人気だ。それらはすべて、晋さんをトップとしたデザインチームが手がける。
「コロナ禍の前から、展示会で会う都会や海外の方が、ストレスフルな生活をしているのを感じていました。そして、コロナ一年目の静寂。私たちはデザインも3DCADもできるし、もっとダイナミックに商品開発ができるだろうと。異素材を掛け合わせる『KISEN』で培ったノウハウを、新ブランドに注入していきました」。社内でチームに分かれ一気に開発を進め誕生したのが「空穏 KUON」。「音・香・灯・花」で五感をやさしく刺激し、心を癒すインテリアブランドだ。2022年のインテリアライフスタイル展では大きな反響があった。「どんぐりん」は、その小ささで美しい音を出すため、笠の部分に内蔵した振り子で金属を打つ仕組みで「ブレイクスルー的な要素が詰まっている」と話す。自身を含めバイリンガルのスタッフが複数在籍することや欧米文化への理解も背景に、自由な発想でどう突き抜け、世界に届けるかを試行錯誤する。「今後も知識と感性を研ぎ澄ませ、オーケストラの指揮者のように様々な作り手や素材の持ち味を熟知し、その掛け合わせが何倍にもなるものづくりをしたい。観光で金屋町を訪れる方の目的地になるような素敵なブランドに育てたい」と語る。
Yotsukawa Seisakusho, founded in 1946, has its office and showroom in Kanaya-machi, Takaoka City, the birthplace of Takaoka copperware. It operates three brands: KISENDO for high-end cast-metal objects, KISEN for dining rooms, and KUON for graceful, soothing interiors. The company creates wholly original designs as a fabless maker, with sales channels extending globally. Susumu Yotsukawa joined the running of the company after spending ten years in the United States. He studied sculpture and molding himself to make his own products adapted to changing lifestyles. The KISEN brand was released in 2014. It won acclaim for its skillful use of the different qualities of metal and wood, garnering it national and international prizes such as the Good Design Award. The advent of COVID-19 led to the release of the emotionally comforting KUON brand in 2022. The Dongurin has a pendulum to strike metal built into the lid so that this small object can produce a beautiful sound. This series of products includes many breakthrough elements. “I want to refine my sensibilities and gain a deep understanding of the distinctive qualities of creators and materials to combine them together like the conductor of an orchestra. My vision for the brand is to make it like the destination of a journey,” says Susumu.