そのウォレットを見た瞬間から、革ではあまり見たことのないきっちりとした立体感、丸みのあるフォルムに惹かれる。どのように、このような形が生まれるのか。「colm Zip Wallet」は、富山市の成田吉宣さんが手がけるオリジナルブランド「colm」のプロダクト。牛ヌメ革を立体成形する、革しぼりという伝統技法で作られている。ひと味違う精巧なつくりは、3DデータをもとにCNC・自動フライス盤でポリプロピレン(PP樹脂)のかたまりから型を削り出し、その型でヌメ革の形を整えたもの。プロダクトデザイナーとして、以前は大阪のデザイン事務所で、プロダクトやそれに付随するパッケージやグラフィックデザインに幅広く携わっていた成田さん。「もともと革製品が好きで、自転車にまつわる革製品のデザインなども手がけていました。プロダクトデザインで培った3Dのデータを使う技術と革を融合させて、面白いものができないかなと思いスタートしました」と語る。
いずれ、富山に帰りたいと考えていた成田さんは、子育て環境も考え3年前に家族で帰郷。colm designを設立してオリジナルのものづくりを始めた。最初の商品はトレー(2020年選定商品)で、お気に入りのものを置けばデスクや棚まわりも美しく整えられる逸品だ。黒と茶を基本に、キャメル、ブルーなど遊びを加えたブランドの色展開は、エイジングによって味わいが出るヌメ革の良さを生かしたもの。「さらに商品を広げていくにあたり、革の財布が好きだったことからデザインしました。サンプルは自分で縫製まで仕上げ、実際の商品はお付き合いのある革専門の縫製職人さんにお願いしています」。縫製前の商品づくりを担うのは妻の弥生さんだ。弥生さんは兵庫県出身で大阪のアパレル企業で洋服や靴、バッグなど雑貨類のデザインも担当。やがて、手作りの靴の魅力に惹かれて靴作りを勉強し、靴メーカーでデザインと製作に従事した経験があった。弥生さんは強度や使い勝手のアドバイスをするなど、その経験も大いに活かされている。
「ヌメ革は日本を代表する皮革産地の一つ、兵庫県たつの市のタンナーから仕入れています。まず、ヌメ革を水で湿らせて雄型、雌型を上下から挟んでプレス機で押します。クランプで固定して、半日ほどできれいな形になります。それを抜き型で抜き、縫製して仕上げへ。トレーも中空ですが、これは形が崩れることがないヌメ革の性質を活かしたもの。ヌメ革以外の革では、形が戻ってしまうのです。精密な仕上がりは、工業製品とクラフトの間のような感じでしょうか」と吉宣さんは話す。吉宣さんはcolmのデザイン、原材料の仕入れ、製造、販売、PRまで一貫して手掛け、「自分がお客さんだったら、この値段で欲しいかどうかはすごく大事で、そこはシビアに検討しています」と語る。「デザインを考えるときは、まず手を動かして、紙や段ボールで作ってみます。手を動かしているうちに、最初とは全然違うものになることもあります。ウォレットも物を入れやすく使いやすい大きさで、皺が入らないようにするなど、何度も試作を重ねました」。型を削るにはかなり時間がかかるため、試作の大変さ、難しさもあるという。
商品の種類も増え、トレー、ウォレット、カードケース、撥水性のあるナイロン生地のウォレットも販売中だ。そこには、自転車やアウトドアが好きな吉宣さんの経験や世界観が反映されている。年に2回、エクストラプレビューという雑貨を中心にした展示会に出展し、新作も発表。バイヤーへのPRや店舗とのネットワークづくりに努める。徐々に商品を扱う店が各地に増え、クラウドファンディングやウェブを通じた販売も順調だ。「リピートが多かったり、お客様から楽しみにしているというコメントをいただくと、ありがたいなと思います」と弥生さんも話す。自分達で手がけるからこそ直接届くそのフィードバックが、colmのものづくりに生かされていく。吉宣さんは自身のブランドの展開のほか、現在も大阪の仕事を継続しつつ、新たに富山県内の企業とのものづくりも始めている。「富山には多くのメーカーがあり、プロダクトデザイナーとして、さまざまなメーカーさんのデザインに携わることができればうれしいですね」。新しい発想で、シンプルでありながら機能性とデザイン性にすぐれたものを生み出すプロダクトデザイナーとして、今後の活躍が大いに期待されている。
Yoshinori Narita, product designer and representative of colm design, returned to Toyama in 2019 after gaining a wide range of experience in a product design office in Osaka. As the first project for his own brand, colm, he has developed products made by three-dimensionally molding vegetable tanned cow leather with resin dies cut using 3D data. He has used 3D to improve the traditional leather shaping method called kawa-shibori. Yoshinori handles everything from design, acquiring raw materials, manufacturing, sales, and PR himself. His wife, Yayoi, also helps with creating the products. Yoshinori likes cycling and uses his own design experience with leather products for cycles to thoroughly consider whether he can create items he himself would want at an affordable price. He shows his latest works at exhibitions twice a year, making sure to appeal to buyers and create networks with stores. The number of locations that stock his products are gradually increasing, while there are also steady sales through crowdfunding and online. He talks about his aspirations to contribute to developing the designs of other makers of goods in Toyama in the future, starting with collaborations with Toyama-based companies. He continues to pursue the potential of materials and manufacturing methods through trying out lots of ideas inspired by his own curiosity.