富山プロダクツ

辻四郎ギター工房

PROFILE
五箇山生まれの辻四郎さんは、京都の茶木弦楽器製作所で修行するなか、ギブソンやマーチンなどのギター修理を通して独自に構造を研究。日本初の単板削り出しのジャズギターを完成させた。結婚を機に故郷に帰り、1974年に独立して辻四郎ギター工房を創設。プロのミュージシャンや世界的なコレクターから絶大な信頼を受け、数多くのギター製作やビンテージギターの修理などに従事。2016年からは息子の隆親さんが加わり新たな風を吹き込む。「できませんとは言わない」を信条に、果敢にものづくりに挑む。 

富山オリジナルの楽器で、世界へ挑む。

プロミュージシャンに愛される工房で

世界遺産「五箇山合掌造り集落」で知られる富山県南砺市(旧平村)。いまでは麓のまちから整備された国道やトンネルを通り快適に辿り着くが、日本の原風景を色濃く残す地として国内外の多くの観光客が訪れる。「こきりこ」や「麦屋節」など、民謡の宝庫でもあり、住民たちは独自の文化を大切に守り伝える。この五箇山の地にあるのが辻四郎ギター工房だ。辻さんは日本のジャズギター製作の第一人者。辻さんが手がけるハンドメイドのアーチトップギターなどは世界トップクラスのクオリティ、音の響きを誇り、多くのプロミュージシャンが愛用。特別注文での製作依頼が引きも切らない。6年前からは息子の隆親さんも工房に加わり、ギターを中心に、コントラバスなど弦楽器の製作と修理を手掛ける。そして、隆親さんが中心となり、富山ならではのオリジナル楽器を作るプロジェクトが始まった。それが、県産圧縮スギと伝統工芸を組み合わせたウクレレだ。

アメリカの著名蒐集家のアドバイスから

富山オリジナルの楽器製作のきっかけは、2019年に隆親さんがギターの売り込みのため、東京の楽器店の担当者とアメリカ各地の楽器店を回ったときのこと。テネシー州ナッシュビルの著名なヴィンテージ・ギターの蒐集家でありギター店の創業者のジョージ・グルーンを訪ねたとき「日本人は細かい作業が得意。アメリカの楽器のコピーではなく、もっとオリジナル性を持たせたものを考え、売り込むといいのではないか」とアドバイスを受けたのだ。帰国後、隆親さんはさまざまな機関への相談を通じて、富山のプロダクトデザイナーでA-PLUS代表の相川繁隆さんと出会った。「相川さんから富山県の木材研究所が開発した県産の間伐スギの圧縮材が活用できるのではないかと。そして、圧縮材は大きさが限定されるため、まずは、ウクレレを作ってみようということになりました」。県の助成事業を活用し、県木材研究所、県総合デザインセンター、A-PLUS、音響試験で県立大学が協力し、共同プロジェクトが2020年にスタートした。

独特の人工杢目や伝統の技が煌めく、ウクレレが誕生

通常、ギターやウクレレなど弦楽器に使われる木材は外国産のマツ科のスプルースなどで、「硬くなければいい音は鳴らない」と辻さん親子は語る。「スギはやわらかく、楽器には向いていません。そこで、楽器に適した圧縮率を試験してもらい、70%であればローズウッド(楽器によく使われる木材)の音響に近いことがわかりました」と隆親さん。高岡のものづくりで実績のある相川さんらとアイデアを練り、加飾には高岡の伝統工芸の技を活かすことになった。ボディは独自のフォルムと美しい杢目が特長で、ボディの表と裏板には県木材研究所開発の人工杢目を施した間伐スギ圧縮材を使用。ヘッドには高岡漆器の螺鈿細工が施され、サウンドホールには高岡銅器の職人による杢目金という、銀板と銅板を何枚も重ね合わせ高温で一体化させ薄く延ばした金属を施した。サイドには県産ナラ材、ネックには県産ヤマザクラを使用し、オール富山県産の素材や技を活かしたウクレレが2021年に完成した。その名も、S.Tsuji クリプトメリアシリーズ「ウクレレ」。クリプトメリアとはスギの学名で、隠れた財産という意味だ。日本固有種のスギが特別な響きを奏で始めた。

 

サステナブルなメイドイン富山で海外へ

 

実際に音を鳴らしてみると、澄んだ響きが心地いい。子どもの小さな手でも持ちやすいよう、ボディの形状は3Dプリンターを用いて試作を重ねた。「楽器作りで3Dプリンターを使うのは初めてのこと。ボディはラッカー塗装のほか、拭き漆のものもあります。これまで工房で培った技術と、富山の素材や技が一体となり、ほかにはないオリジナリティと高級感のある楽器となりました。さっそく注文も入り、女性アーティスト用に螺鈿にオリジナルのデザインを施して納品し、とても好評です」。さらに現在、曲がる圧縮材を試作中で、今後はオール圧縮材のウクレレや、いずれはギターの製作を実現させたいとも話す。「このウクレレを手始めに、今後も富山でしかできない楽器づくりで、世界にアピールしていきたい。コロナ禍がおさまり、海外の展示会などでも多くの方に見ていただければと思います」と期待を込める隆親さん。ウクレレ作りを通して富山の森林資源の活用ができ、様々な人や伝統技術を結ぶことでサステナブルなプロジェクトとも言える。五箇山という独自の文化が色濃く残る地から、メイドイン富山の、世界の人々に愛されるほかにはないものづくりはつづいていく。

 

Nanto, a city in Toyama known for the Historic Villages of Gokayama, a world heritage site, strongly retains the archetypal scenery and culture of Japan. Gokayama is also home to the guitar studio managed by Shiro Tsuji, one of Japan’s foremost makers of jazz guitars. His archtop guitars have quality the equal of any in the world, with a sound that has won the firm trust of professional musicians. In 2020 his son Takachika started a project to make original musical instruments. The first product was a ukulele made combining the traditional crafting techniques of Toyama with compressed wood from Toyama cedar thinnings. Takachika is working on this project in collaboration with product designer Shigetaka Aikawa, the Toyama Forest Products Research Institute, Toyama Design Center, and Toyama Prefectural University. The body of the ukulele uses compressed cedar with man-made grain patterns. The head has Takaoka lacquerware mother-of-pearl inlay, and the sound hole is crafted with patterns called mokumegane by a skilled worker of Takaoka copperware, giving a crystal-clear tone. A 3D printer was used to trial shapes for the body to find one allowing even people with smaller hands to play it. Takachika hopes to further improve his techniques to display his creations in exhibitions in other countries for more people to see his works.