富山県西部の小矢部市を拠点にする株式会社アートジョイ。合成繊維製品の企画、開発から、染色、起毛、縫製などの仕上げ加工、販売までを一貫して行うIAAZAJホールディングス株式会社(イチアミエイゼットアートジョイホールディングス)のグループ企業の一つ。アートジョイでは、グループで得意としてきた起毛技術や、最先端の高速インクジェットプリンターによるプリント技術など、強みを活かした自社ブランド、CanRulerの開発と販売を手掛ける。CanRulerはトレッキングを中心とした山ウェアのブランドで、Canは「できる」、Rulerは「目盛りのないものさし」という意味。規格や基準は自分たちで決めるものと考え、自然や山というシーンを通して自由な発想を活かし、高機能・高品質な製品を発表している。立山ガイドの佐伯知彦さんと商品開発でコラボし、同社が佐伯さんのエベレスト登頂成功を支援したことでも話題になった。その独自のものづくりについて伺った。
「繊維製品の生産地の多くは海外となり、国内での生産が減少していますが、富山、福井、石川の北陸3県は、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維の生産と加工では国内有数の規模を誇る産地です。なかでも富山県の繊維企業はニット製品の製造・加工を得意としているんですよ」と、IAAZAJホ ールディングス(株)代表取締役社長の小田浩史氏は語る。同社はニットの染色加工分野では国内最大手だ。
以前は大手商社やメーカーからの依頼で、全て決められた仕様で製造することが多かった。しかし、最近では、逆にアイデアを求められることが増えたという。「与えられたものを作ることは長年培った技術やノウハウもあり得意ですが、次のステップとして、自分たちのアイデアで、子どもたちに胸を張れる自社ブランドを作れるようにならなければ、この先は明るくないだろうと。私が考えるいい会社とは、儲かるかどうかよりも、50年後、100年後も続く会社です。自社プランドで高い評価を受けることができれば、その技術を大手プランドにも売り込むことができ、当グループでの加工にもつながるのです。」
世界的に均一化されたアパレル商品が増える中で、いかにオリジナルなプロダクトが提案できるかが課題に。そこで、中小機構の専門家のアドバイスも受け、グループの強みである起毛やプリントの高い技術を活かしながら、地域の活動家と協力し合うものづくりがスタート。 2013年にTATEYAMA Wa’U (タテヤマ ・ ワウ)というプロジェクトを立ち上げた。Wa’Uはハワイ語で引っ掻くという意味。起毛技術で富山らしい魅力を掻き出したいとの思いがある。「『山、農業、宿、ものづくり』といったシーンを見つけ、当社の技術と一番マッチングしたのが山。そこからCanRulerブランドが誕生しました」。富山県で立山ガイドとして活躍する佐伯知彦さんに、インナーの上に着る、起毛技術を活かしたアクティブインサレーションなどを着用評価してもらい開発。さらに、佐伯さんの夢であったエベレスト登頂を支援し、2019年5月には見事登頂に成功した。エベレストでも着用されたアクティブインサレーションは特殊な断面の糸を起毛し、1着80gと超軽量(Lサイズ)。速乾性、通気性、保温性にも優れ、特に山のプロからの評価が高いという。
開発にあたった(株)アートジョイの辻実さんは、エベレストの4500m付近まで佐伯さんに同行したとか。辻さんも、かつてはクロスカントリースキ ーの国体選手であり、登山経験者。これまでの企画 ・ 営業 ・ 販売部門での経験も存分に生かして開発にあたった。「命をかける場面で着る山ウェア、繊維商品としては最高峰のものができたと自負しています。実際に店舗での動きは、とてもいいものがあります。この軽さ、速乾性の良さを、Webでも、もっと、うまくアピールしていけたらと考えています。この商品を起点に、さらに裾野を広げていきたい」と意気込みを語る。機能性の高さと同時に、デザイン性も重視しながら、今後も改良が重ねられていく予定だ。
小田社長は、「当社は、車、産業資材、メディカル、スポーツ、ファッションなど、実に多彩な繊維分野にかかわっていますから、人材の採用にあたっても、文系・理系を問わず全方位の発想や力が必要。今後も採用の門戸を広く開いていきたい」と話す。最先端の医療分野での技荷開発にも参加するなど、次の可能性に満ちた繊維企業として目が離せない。
CanRulerプランドサイト https://www.canruler.com